折れた後



足元に落ちている鉄屑を拾って、ウィザードは腰を下ろした。
彼の横には、落ち込んだ様子で頭を抱えながら座り込むブラックスミスがいる。
「チクショ、後ちょっとだったってのに……」
そう言うと、ブラックスミスは大きく溜息をついた。
「プリーストに協力してもらって、この有様か」
どう見ても、使い物にならないとしか思えない鉄屑を弄びながら、ウィザードが呟いた。
「やっぱりお前、武器製造は向いてないな……」
ウィザードが独り言のように呟くと、ブラックスミスは首を横に振った。
「いや、武器なんてどうでもいい……いや、そりゃ成功したほうがいいけど、どうでもいいんだよ」
「は?」
ウィザードが怪訝そうな顔をする。
ブラックスミスは、彼から鉄屑を取り上げて、人のいない方に向かって放り投げると、その場に立ち上がった。
「あのプリのお姉様、ムチャクチャ美人だったんだよ……。もうちょっと時間があれば、デートの約束ぐらい出来たかもしれないのに」
彼はそう言うと、先程よりさらに深い溜息をついた。
「阿呆が」
ウィザードは退屈そうにそう返した。
「そんなくだらない事ばかり考えてるから失敗するんだろう」
冷たく吐き捨てられた言葉に、ブラックスミスがムッとした表情で振り返る。
「別にそんなの関係ねーじゃん」
その言葉に、ウィザードが微かに唇を吊り上げて、ああ、と呟く。
「そんなこと考えなくても失敗するな」
「うるせえよバカ」
苛立たしげに舌打ちして髪をかき上げるブラックスミスを、ウィザードが鼻で笑う。
ブラックスミスは何か文句を言おうとしたのだが、ウィザードのことだ、どうせまた性格の悪い答えを返すだけだろうと思い、大きく頭を振った。
「ホントムカツク」
ただ一言、吐き捨てるようにそう言って、ブラックスミスはもう一度腰をおろした。
隣の男に、失敗した自分を慰めたり、元気付けるという考えは全く無いらしい。退屈そうに空を眺めている。
「あー……やっぱりこんな無愛想より、綺麗なお姉様とコンビ組みたいね。いいフインキだったんだけどなー……」
相手に聞かせるように大きく溜息をつくと、ウィザードが鋭い視線で睨み付けた。
「違う。フンイキ」
わざわざ指摘してくるウィザードに、ブラックスミスの中で何かが切れた。
「お前はいちいちうっせえよ!」
そう怒鳴って立ち上がると、彼はウィザードの胸倉を掴み、その場に無理矢理引きずり立たせた。
不機嫌そうな目に睨みつけられたが、今回はブラックスミスも引かなかった。
「俺が何やろうと勝手だろ!? 武器作りながらお姉様いいなーって思って何が悪いんですか? 雰囲気をフインキって言って何が悪いんですか? え、言ってみろよ!」
怒鳴りつけた後、無言の睨み合い。
張り詰めた空気の中で、ウィザードがおもむろに口を開く。
「頭」
表情一つ変えない彼の答えに、ブラックスミスの思考が停止した。
しばしの無言の後、ブラックスミスは大きく溜息をついて、頭を振った。
ウィザードはブラックスミスの手をどけると、掴まれた衣服を軽く直し、元の場所に座りなおした。
ブラックスミスはその場に立ち尽くしていたが、やがて諦めたような顔立ちでウィザードの横に座った。
「素敵なお答え、どうもありがとう……」
「どういたしまして」
皮肉に動じる事も無く、ウィザードはそう返した。
相変わらず退屈そうな彼の横顔をチラリと見て、ブラックスミスは溜息をついた。
「お前、俺の事嫌いでしょ……?」
疲れきった様子で聞くブラックスミスに、ウィザードは軽く肩を竦めるだけだった。
その表情がどこか楽しそうに見えたのは、自分の疲れのせいに違いないと、ブラックスミスは思った。





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