proud of you



ブラックスミスの女性が、硬貨の入った袋の口を閉めた。
「他の皆も帰ったことだし、私は露店出してくるわ。二人ともお疲れ様」
彼女を含め、臨時で集めた六人で行った狩りの清算を任されたブラックスミスは、自分の取り分をカートにしまい込んで立ち上がった。
「またよろしくね」
「おう、清算お疲れさん」
メンバーのうち、三人は既にその場を離れていて、残っていたのは彼女と、プリーストと騎士の男二人連れであった。
労いの言葉を掛けてくれた二人に手を振って、ブラックスミスは人通りの多い路地へと向かっていった。
後に残されたプリーストが、騎士を見た。
「さて、どうしましょ?」
騎士はそうだなあ、と呟いて頭をかいた。
「ちょっと早めだけど、晩飯にでもすっか」
「あいよ」
プリーストの答えを聞くと、騎士は歩き出した。
離れていく騎士の背を見つめながら、プリーストは内心で溜息を吐いた。
本当は、もう一時間ぐらい狩りに出たかった。
といっても、支援の腕を上げたいわけでも、金を稼ぎたいわけでもなかった。ここ数日、プリーストは騎士とともに、あちこちの臨時を渡り歩いている。おかげで、良い支援の経験を積めているし、安心して生活できる程度には稼ぎもある。
「どうした?」
プリーストがついてこない事に気付いた騎士が振り返った。
その姿に、プリーストは少しだけ目を細めた。
それなりに人がいる場所で、自分の存在に気付いてくれる騎士が、プリーストには愛しかった。
愛しいからこそ、最近の生活が不満である。
不思議そうな顔で自分を待つ騎士の元に駆け寄ると、なあ、とプリーストは声をかけた。
「最近俺ら、大人数での狩りばっかり行ってるよね」
つまり、二人きりで狩りに行っていないこと。
騎士に対して、友情や仲間意識といったものを超えた感情を持つプリーストにしてみれば、それは立派な不満となる。
勿論、狩りの後に一緒に過ごす事もあるので、二人きりの時間が全くないという訳ではない。けれど、それは二人きりで狩りに行った日と比べれば、かなり短い時間だし、狩りに行く事とくつろいで食事をする事では、緊張感がまるで違う。
「そうだな」
しかし騎士は特に何も感じないらしい。不思議そうな顔で、プリーストを見つめるばかりである。
はあ、とプリーストは、今度は外に出して溜息を吐いた。
「最近デートしてないっていうのに冷たいこと……」
「デートって……」
騎士が顔をしかめた。
「そりゃ、ペアで狩りは行ってないけど、臨時の時は一緒じゃん」
「分かってないなあ、二人きりって事に意味があるんだろ」
「知るか」
冷たく切り捨てると、騎士はまた歩き出した。
振り向いてくれるつもりはないらしい。仕方なく、プリーストもとぼとぼと後に続く。
「大体、そんなの勿体無いじゃん」
「何が?」
振り向きもしない騎士の背に、プリーストは尋ねる。
「お前がへっぽこぼろぼろ支援だっていうなら、臨時に誘うの可哀想かなーとか思うけど、そうじゃないじゃん」
「あら褒めてくれてんの?」
茶化すプリーストに、騎士は構おうとしなかった。
「ちゃんとした支援の腕があるんだから、臨時組んで、色んな人と出かけたほうが良いだろ」
あれ、とプリーストは思う。
「俺一人じゃなくて、他に人がいたって支援出来るし……」
「それってさあ」
騎士の言葉を遮るようにして、プリーストが呟く。
「自慢の彼氏を他の人にも見せたい、って事?」
「はぁっ?」
凄い形相で、騎士が振り返る。
「誰がいつ、そんな事言った!」
胸倉を掴む騎士に、プリーストは両手を挙げながらも呟く。
「や、だってさあ、さっきから俺がいかに凄いプリーストか、みたいな話しかしてないじゃん」
「そうじゃなくて!」
騎士が声を荒げる。
「どうせ臨時行くならしっかりした支援と組みたいし、だからお前じゃなくても良いんだけど、身近で支援つうとお前が一番……ああ、そうじゃなくて、臨時で集まると支援が見つからない事あるし、それなら一番良い支援と一緒に……えーと……」
勢いそのままに発せられた言葉は、段々と小さくなり、最後には騎士は黙り込んでしまった。
「でしょ?」
掴まれたままだが、平然とした様子のプリーストの声が、とどめになった。
プリーストの胸倉から、力の抜けた様子で、騎士は手を離した。
どうしたものかとプリーストが見つめる前で、彼はくるりと背を向けた。
「飯食いに」
「逃げるな逃げるな」
今にも駆け出しそうだった騎士のマントを、プリーストが引っ掴む。
「俺が支援上手くなったのは、お前のお陰だよ」
「そんな話聞いてねえ!」
「お前が無謀にも群れやら強い奴やらに突っ込んでくから、支援が下手じゃやってけないっつうの」
「……素直に喜べないだろそれ」
「だって本当だし」
「悪かったな!」
マントを取り返そうとした騎士の手を、プリーストが掴む。
「悪くねえよ」
え、と騎士が呟く。
真摯な様子で、プリーストは騎士に囁きかけた。
「本気で感謝してる。お前じゃなかったらここまでマジに支援なんかやらなかった」
「……あっそう」
ぶっきらぼうに呟いた騎士が、プリーストの手を振り払った。
それが照れ隠しである事に、プリーストはすぐに気付いた。
「感謝してるなら、これからも精進するように」
「しますします、お前の自慢の彼氏として恥ずかしくないよう頑張らせて頂きます」
「だからそうじゃ……!」
更に文句を言おうとした騎士の耳元に、プリーストはそっと口を近づけた。
「でも、お前も俺の自慢の恋人だよ」
騎士の動きが止まった。
プリーストが体を離すと、騎士は目を泳がせるようにしてから、微かに俯いた。
「……それは、どうも」
「どういたしまして」
まだまともに目を合わせようとしない騎士を見ながら、さて、とプリーストは呟く。
「これ以上二人きりの時間が減るのも嫌だし、さっさと飯に行きますかね」
プリーストが歩き出そうとすると、騎士がその横に並んだ。
何だろうと思ったプリーストの鼓膜を、騎士の囁きがくすぐる。
「だったら、今日は朝日が出るまで二人きりでいてやる」
プリーストが振り向くより早く、騎士はさっさと先へ行ってしまった。
置いて行かれたプリーストは、何度か目を瞬くと、ふっと表情を緩ませた。
「……悪くねえ」
臨時生活も、意外と悪くない。





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