高い代償



ウィザードは困惑していた。
日頃からとことこついてくるノービスを、彼は(廃だが)まだ子供だと思っていた。
いや、本当は彼がノービスを子供だと信じていたかっただけなのかもしれない。
少なくとも、今目の前、それも息がかかるほど近くにいるノービスの目は子供のものではなかった。
そっとノービスに自らの赤い髪を撫でられ、思わず彼は身を竦めた。
それすらも予測していたように、ノービスは微笑み、彼の胸に顔をうずめた。
「……先輩、俺、これ以上我慢できないよ」
呟くような彼の声に、ウィザードは首を振る。
「……駄目だ」
必死の思いで出した声は、思った以上に掠れていた。
ノービスが顔を上げ、ウィザードの目を見つめる。
「何で? 先輩だってやりたいでしょ?」
「それは、そうだが……」
ウィザードの答えに、ノービスが微笑んだ。
「ね、ちょっとだけだから」
彼はそう言うと、ウィザードの腰に手を回した。
「嫌だっ……」
「そんなこと言わないで。大丈夫、ためらうのは最初だけだから」
小さな声で呟き、ノービスがウィザードの額に自らの額をコツンとぶつけた。
「俺のこと、好きでしょ?」
からかうような彼の囁きに、ウィザードが目を見開き、逃げるように目を伏せた。
「……お前……そんなに雛あられと菱餅が食いたいか」
「食いたいに決まってるじゃないですかあぁっ……」
至近距離のまま、半泣きになって訴えるノービスに、ウィザードは溜息をついた。
「馬鹿か貴様は」
力の緩んだノービスの手を解き、ウィザードは立ち上がった。
「だって、あんなお菓子俺初めて見たんですよ? しかもムチャクチャ美味そうじゃないですか!」
「だからって、それだけのために50Kも無駄に出来るか!」
ウィザードはそう怒鳴りつけると、腰に下げていた小さな袋を手に取った。
中には菱餅と雛あられがそれぞれ数個ずつ入っている。
「ね、一個でいいんですって!」
「駄目ったら駄目!」
まるで母親のようだ。
ウィザードの言葉に、ノービスはわざとらしく傷ついた表情を作り、嘘泣きを始めた。
「うわーん、先輩のケチ、意地悪、鬼、癌砲……」
そういって背中を丸め、いじけるノービスを冷たく見やり、ウィザードは鼻で笑った。
「ああそうだ、私はケチで意地悪で鬼で癌砲の手先のような男だ。そんな最悪な奴だから、貴様一人ここにおいて何か美味いものでも食べてくるさ」
それだけ言い残すと、彼はさっさと歩き出してしまった。
「ってちょと先輩!? それずっこいじゃないですか! 俺も美味いもの食いたいですって!」
本気で置いて行くウィザードに、慌ててノービスが立ち上がった。
ウィザードは足を止めるどころか、振り向く事もせず呟いた。
「ポリンから雛あられでも分けてもらえ」
「先輩、それマジ酷いですって、ね、ちょっと待ってってば!」
当然、そんな言葉に耳を貸す様子もなかった。





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