Nature

一種一種、植物を取り上げて、その植物にまつわる話題を写真とともに紹介します。

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植物記
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山に群生するお馴染みの花
ニッコウキスゲ(ゼンテイカ)

ユリ科
Hemerocallis 
esculenta
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 尾瀬や霧ヶ峰、雄国沼湿原など、ニッコウキスゲの大群生地というのは、各地の山にいくつもある。7月、湿原や山肌を黄色に染め、その光景は華やかで魅力的だ。だから毎年花期になると注目を浴びて群生地には多くの人が訪れる。それに群生しないまでも、自生している山はさらに多いから登山者にはお馴染みの花のひとつとなっている。
 ユリ科ワスレグサ属の多年草で、本州中部地方以北と北海道に分布。上記学名をご覧頂ければわかるが、園芸植物のヘメロカリスと同属だ。ヘメロカリスには橙色やピンク色など、さまざまな花色の品種があるが、確かにその姿はニッコウキスゲとよく似ている。ユリ科だしユリに似ているというので、ユリのなかまだと思われがちだが、遺伝子レベルでは決して近縁というわけではなさそうだ。
 現在、一般にはニッコウキスゲという名前で広く知られているが、標準和名はゼンテイカであってニッコウキスゲは別名である。ゼンテイカというのは「禅庭花」と書くが、由来は不明とされる。またニッコウキスゲは、ご想像通り日光に多いことから命名されたものだ。最近はニッコウキスゲの名前で掲載する図鑑もあるようだが、ゼンテイカとして掲載しニッコウキスゲは別名とする図鑑の方が多い。ただ一般の知名度はまったく逆で、ゼンテイカの名前を知る人はごく少ない。私も一般向け雑誌の記事に原稿を書くときも「ゼンテイカの花園をトレッキング…」なんてキャッチを書こうとは思わない。読んだ人も何のことかわからないだろうから、やはりニッコウキスゲの名前を使う。ここまでニッコウキスゲの方が浸透してしまったら、こちらを標準和名にしてゼンテイカを別名にしてもいいのではないかとも思えてくる。知名度の低い方を標準和名にしなければならない理由はない。そこで本項では、とりあえずニッコウキスゲで統一させて頂くことにした。
 さてニッコウキスゲはよく「朝咲いて夕方には閉じる1日花」といわれる。私もその話しを鵜呑みにして、過去に何度かそう書いたこともあるが、以前ある自生地でひとつの花を観察したところ、朝咲いて翌日の夕方閉じることが判明。調べてみると、確かにそのように書いてある本もある。ただすべての花がそうなのかはわからない。ひょっとすると1日花と2日花、両方あって何らかの条件で変わるとか、株によって変わるとか、そんな可能性もないとはいえない。一方で1日花説というのが、完全な間違いの可能性も否定できない。
 なお北海道に分布し花茎がほとんどないものをエゾゼンテイカとして区別する見解もある。ほかのなかまとしては飛島や佐渡に分布するトビシマカンゾウ(H. exaltata)、東京の浅間山公園のみに自生するムサシノキスゲ、淡いレモンイエローの花が夕方から咲き始めるユウスゲ(H. vespertina)、人里など身近な場所に見られるノカンゾウ(H. longituba)とヤブカンゾウ(H. fulva var. kwanso)、西日本の海岸に生えるハマカンゾウ(H. littorea)、さらに屋久島の低地には秋に咲くトキワカンゾウ(別名:アキノワスレグサ。H. fulva var. sempervirens)がある。ちなみにユウスゲの北海道産をエゾキスゲ(H. yezoensis)として分けることもある。

関連情報→本サイト植物記「ムサシノキスゲ」「トキワカンゾウ

 
ニッコウキスゲ。秋田県藤里町・田苗代湿原にて(左)。宮城県栗原市・世界谷地に群生するニッコウキスゲ(右)。


花を真横から見たところ(左)。蕾(中)。果実は刮ハで3室に分かれ、熟すと割れて黒い種子が散る(右)。

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