小さい頃からマンガが好きだった。小、中、高とどっぷりハマっていた。ハマりすぎて浪人してしまった。マズイと思って、必死に勉強して志望校に受かった。上京を機にマンガ断ちをすることにした。東京で、二次元ではないギャルズと遊びたかったからだ。オタクではモテないと思ったからだ。 でも、JC「けっこう仮面」全5巻だけは持っていくことにした。彼女ができなかった場合に使えるからだ。嘘だ。大好きだったからだ。 大学で友人ができた。O坪という男だ。二浪していて、ひとつ年上だった。チューバッカみたいな顔の粗暴な男だが、バンドでベースを弾いていて、女性にはよくモテた。カッコイイと思った。オタクの自分を隠して、そいつとツルんで遊んだ。 O坪は自宅だったから、大学に近い俺の下宿によく泊まった。ある日、「そろそろ授業に出よう」と言うと、「かったるいから寝てる」とO坪。無頼な物言いがサマになっていた。一緒にサボるほどの度胸はまだなかった。 いくつかの授業を終えて部屋に戻ると、O坪はいなかった。俺がいない間に帰ったのだ。部屋のカギはあけっぱなしだ。無用心このうえないが、そんなところがまたO坪らしくて、腹は立たなかった。 ふと見ると、カラーボックスの中の、「けっこう仮面」全5巻の位置が、いつもと微妙に違う。自分はすでにオタクではないので、無造作を装って置いてあるが、すんんんんげぇ大切な本だから、1ミリでもズレていればわかる。O坪が読んだのだ。 折り目をつけたり、開き過ぎたりして読んでないだろうな。目を皿のようにしてチェック開始。オタク全開である。第1巻、VS鉄人似獣八五郎の場面、「どうしても見たい人はこのシールをはがしてください」の部分が、おもいっきり爪でこすられて白くハゲている。2か所ともだ。O坪との付き合いは終わった…。 私にとって「けっこう仮面」とはそういう作品です。 |
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