第7話 試される
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三蔵の一行は無事に流沙河を越え、さらに西へ向かって旅を続けた。
しばらく行くと、悟空と八戒が歩きながら言い争いを始めた。
八戒の言い分は、自分だけたくさんの荷物を持ち、悟空は手ぶら。そのことに不満があった。
悟空は悟空で、三蔵の用心棒だから荷物は持たないと言い訳をしている。
それを見かねた三蔵は言い争いを辞めさせ、近くに見えてきた屋敷で休むことにした。
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その屋敷へ近づくにつれ、門は見事な漆塗りでびっくりするほど綺麗だった。
悟空が、塀から庭を覗くと松や竹に囲まれ、屋敷の柱は黄金の輝きを放っていた。
人の気配を感じたのか、門の中から女の声がした。
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「どなたですか?」
「天竺に行く、旅の者です。」
「それはそれは、ようこそ。どうぞ中へお入りください。」
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門が開くと中から綺麗な女が出てきた。女は悟空達を居間に案内して、茶のもてなしをした。
悟空は妙にこの屋敷のことが気になり、女に色々と聞いてみた。
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「で、ここはどういうお屋敷なんでさぁ?」
「私は、『賈(か)』と申します。実は数年前、家の主に先立たれ、今は私と3人の娘と
暮らしております。今は財産も田畑もあり、何不自由なく暮らしておりますが、ひとつ
だけ悩みがあります。それは3人の娘が結婚していないことです。でも、こんなことが
あってよろしいものでしょうか。私どもも4人、そちら様も4人。よろしければ、いっしょに
暮らしていただけないでしょうか?」
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それを聞いていた八戒は
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「こんないい話はなかなか無ぇ。ここはひとつ、人助けと思って一緒に暮らそうよ。」
「黙りなさい、八戒。私達には、天竺に行くという尊い目的があるのです。どんな事にも
心を惑わされてはいけません。」
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それを聞いていた女は、機嫌を悪くして奥の部屋へ行ってしまった。
八戒はムッとして可哀想だと言い張った。
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しばらくして、悟空は馬に草を食べさせる仕事を八戒に頼んだ。
八戒は渋々と馬を引き連れて裏門から出て行った。
悟空は、もしかすると何かあるかもしれないと思い、虫に化けて八戒をつけて行った。
案の定、女と娘達は八戒に声を掛けた。八戒は目じりを下げて、二つ返事で結婚することを了解してしまった。
悟空は、ここで八戒を止めてしまうと今夜の宿がなくなってしまうと思い、とりあえず様子を見ることにして居間に戻った。
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その頃、八戒は馬に草を食べさせ、そそくさと女のいる部屋へ行った。
女は娘達が仕立てた肌着を八戒に着てもらい、ピッタリとあった物を仕立てた娘を嫁にすると言った。
八戒は自分の服を脱ぎ捨て、先ずは一番下の娘の仕立てた肌着を着てみた。
すると、肌着は体をどんどん締め付けていき、八戒は息ができなくなり、その場で気を失ってしまった。
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実は、この女は「黎山老母(れいざんろうぼ)」で、娘達はそれぞれ「観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)(=観音)」「普賢菩薩(ふげんぼさつ)」「文殊菩薩(もんじゅぼさつ)」。
三蔵達がこれから先、果てしない旅を続けるにあたり、心を確かめるために人間に化けていた。
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翌朝、目を覚ました三蔵達はビックリした。あるはずの屋敷は無くなり、自分達は林の地面の上で寝ていた。
悟空は辺りを見回すと、やはり八戒がいない。三蔵も一緒に捜していると、木の幹に張り紙を見つけた。
張り紙には『八戒、懲らしめるなり』。林の奥深くから助けを求める八戒の声が聞こえてくる。
三蔵達が駆けつけると、両手を縛られ、木に吊り下げられていた。
沙悟浄が縄を解いてやると、三蔵が木の幹に貼ってあった張り紙を八戒に見せた。
八戒はしょんぼりとして、自分のとった行動を反省した。そして2度とこのようなことが無いよう心に誓った。
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