中絶手術に失敗した女子高校生が「アルキメデス」という不可解なことばを残して死亡した。その女子高生が通っていた高校では弁当に農薬を混入させた毒殺未遂事件が発生し、さらには、不倫関係に端を発する殺人事件まで起こる。ミステリアスな事件に巻き込まれた、反体制的で向こう見ずだが友情に厚い高校生たちを主人公にした第19回江戸川乱歩賞受賞作である。
この本、遥か昔に読んだ本である。書棚に並んでいるのを偶然見つけ、なつかしくなって読み返してみたのだ。テンポよく進行するストーリーは読みやすいし、高校生を主人公にしているため全体的な雰囲気が若々しく、私が高校生のときを思い出させてくれたものである。しかし、あらためて読み直してみると、この小説の材料となる事件がひととおり出揃った時点で、それぞれの犯人を完全に特定はできないものの、犯人となるであろう対象人物がかなり限定できてしまった点は、推理小説としてやや迫力不足を感じた。また、反体制的高校生たちが起こす行動が「妊娠」であった、というのはやや非現実的なストーリー設定だと
感じたのは私だけだろうか。とはいうものの、この作品の小説としての出来栄えやおもしろさを否定するものではない。
なお、著者はこの「アルキメデス」のあとに「ピタゴラス豆畑に死す」 を執筆している。すべての面で「アルキメデス」を凌駕する秀作との評判である。
私が所有している「アルキメデス」は昭和50年発行の講談社文庫で和田誠さんのカバー装画によるものだが、このオリジナル本は絶版となっている。現在、新本として入手できるのは、「アルキメデスは手を汚さない
暗黒告知―江戸川乱歩賞全集〈9〉 」のみということらしい。
2006年7月5日 |