人間には必ず3つの「欲」があるそうだ。それは、食欲、睡眠欲、そして性欲らしい。もちろん、そのほかにも名誉欲、知識欲、支配欲、物欲など、人間の欲をひとつひとつ挙げていったら枚挙に遑がないが、人間の生理に基づく本能的な欲となるとこの3つということになるようだ。その人間の三欲のひとつである性欲、しかも、社会では一般的にタブー視されている障害者の愛と性の問題に向き合ったのが本書である。
脳性麻痺で手足の自由が利かず、声も失った70歳過ぎの男性が酸素ボンベをはずして行なう命がけの性行為。障害者専門の出張型風俗店。自慰の手助けをすることもあるという介助の現場。障害者たちの性処理を有料でサポートするオランダの団体、そして、自治体が「セックス助成金」を支出するオランダの実際など、障害者が通常の社会生活を享受できるような体制や考え方が福祉の理念として浸透しつつある今日でも、依然光が当たることがほとんどない障害者の性の問題を新鋭の女性フリーライターが3年をかけて取材したノンフィクションである。
「障害者だって恋愛をしたい、障害者だって性欲があるのは自然なこと」。しかし、障害があるがゆえに恋愛はおろか性欲を自分で処理することもできない人々の苦悩を社会はどれだけ理解し受けとめているだろうか。障害者の性や恋愛がタブー視され、支援体制も追いついていない状況で、ボランティアネットワークがインターネット上で整備されつつあると聞く。この問題は今後も表立って議論されることはなく「ボランティア」たちがその重要な役目を担っていくことになるのかもしれない。
著者は取材を通して、「性や恋愛の喜び、悩みは誰でも同じ。健常者も自分の性を見つめ直すことになる。根源的な欲望が受け入れられる社会が暮らしやすいはず。障害者の性の問題はその試金石」という。このようなデリケートな問題を取材する過程には多くの困難と女性ゆえの挫折があったと思う。障害者の性をタブー視して、無いもののように扱う現実と障害者の恋愛を美談として褒め称える風潮に疑問を持ったというジャーナリスト魂に敬意を表するものである。
2005年12月18日 |