先日、今話題になっている「ダ・ヴィンチ・コード」に関するテレビ番組を観ていたら、ミラノの勅令、二ケーア公会議、三位一体説など、高校生のころ勉強した覚えのあるなつかしい単語が出てきた。今となってはそれらは既にうろ覚えの知識となっているため、書棚に並んでいる世界史の教科書(詳説世界史・山川出版社刊だ!)を読み直してみた。お目当ての箇所には簡単に辿り着いたのだが、その記述たるや、つくづく大雑把なものだと感じた。約2000年の歴史をわずか400ページに詰めこんでいるわけだから仕方のないことだが、久し振りに世界史の教科書を眺めてみて、歴史とは決して一本の線上に規則正しく順番に続いているのではなく、何本もの線が世界中至るところで発生し、時にはその線同士が複雑に絡まりあいながら延びているものだということをあらためて感じさせられた。
この本で紹介されているのは、世界中に存在する様々な「歴史」のひとつ、日本の皇族の歴史である。特に、第二次世界大戦前夜から終戦を経て、アメリカの占領下にあった日本において皇族が果たした役割の記述に多くの部分が割かれている。この時代の記述は、前出の教科書では3ページに「凝縮」されているが、当然のことながら、そこには日本の皇族に関する記述は何もない。この本によって、教科書に書かれている文章の行間を、「戦争と皇族」というひとつの軸を中心に読むことができる。
この本を読む限りにおいて、戦時中の日本では皇族が現代とは比較にならないほど政治に関与していたことがわかる。高松宮、秩父宮、東久邇宮などを始めとする皇族と、東条英機、近衛文麿、山県有朋らとの関わりがリアルに記述されている。戦時中、皇族は特別扱いを受け、極力危険な任務に就かせないようにする不文律があったようだが、そのような中にあって、国民と同じように自ら危険な任務に就くことを求めて軍部と対立した皇族、そして、実際に戦場に赴き命を散らした皇族のことや、日本が無条件降伏しポツダム宣言を受け入れる際には、最前線で戦っていた支那、関東、朝鮮、南方戦線部隊に終戦の聖旨を伝達するために、皇族が昭和天皇の特使として派遣されたことなどにも言及されている。また、マッカーサーによって進められた皇室改革により皇族特権を剥奪され民間人となった11の宮家の人々の波乱に満ちた戦後も紹介されている。本書は戦争と皇族を中心としたひとつの昭和史なのである。
さらに本書では、今まで2000年以上続いてきている日本の皇室の歴史にも触れている。皇室制度を支えてきた世襲親王家と側室制度や、過去に3回あった皇統断絶の危機の際には傍系の男系皇族が即位して皇統を繋げてきた歴史を紹介し、万世一系が持つ重み、十分な議論を尽くすことなく安易に女系天皇を認めることに対する警鐘を鳴らしている。皇室典範改正論議は、いわゆる、「有識者」たちが中心となって進められており、当事者である皇室が蚊帳の外になっている感は否めない。本書が旧皇族・竹田家の末裔によって著されていることは意義のあることである。
2006年6月7日 |