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飛行伝説 − 大空に挑んだ勇者たち

 



 飛行伝説―
大空に挑んだ勇者たち

 

 

 

 

 
   
書名 飛行伝説 − 大空に挑んだ勇者たち
著者

ジョルジェ・エヴァンジェリスティ著、中村浩子訳

出版社 ソニー・マガジンズ
価格 本体900円+税
   
 
小学生の頃、ラジコンの飛行機が欲しくて欲しくてたまらなかった。私が小学生時代を過ごしたのどかな地方都市では、模型飛行機好きの大人たちが小学校の校庭にラジコン飛行機を飛ばしに来ていた。2ストロークのオートバイのような甲高いエンジン音が響き渡るのを聞くと子供たちが集まってきて、小さな機体が青い空に舞っているのをうっとり見上げていたものである。私がラジコンの飛行機に憧れたのは、まさに、それが鳥のように空を飛んでみたいという子供の夢を満たしてくれる代替手段に見えたからのように思う。

この「飛行伝説」は、危険を顧みることなく、実際に空を飛ぶことへの夢に挑戦し、実現させた人々のドラマ39話を収録している。人類初のエンジン式飛行機による飛行は、1903年、ライト兄弟によって成し遂げられたとされているが、本書は、ライト兄弟以前に大きな鳥の羽のようなものを身につけて丘の上から駆け降りて空を飛ぶことを試みたリリエンタールのストーリーから始まる。以降、何よりも飛ぶことに憧れ、ある者は冒険飛行に、ある者は戦闘飛行やテスト飛行に、ある者は記録のためにみずからの命を賭けて臨んだパイロットたちの夢とロマンに溢れた知られざる物語が紹介されている。

太平洋戦争中、日本の「零戦」が備えていた高い性能は対戦国からひどく怖れられたと聞く。そのような当時の先進的な日本の航空機技術にも言及されていることを期待したが、本書ではそのような日本の飛行機に関する記述が少ないことがやや残念に感じる。その点については、日本語で書かれた資料の入手や解読が著者にとって困難であっただけでなく、第二次世界大戦後に敗戦国となった日本、イタリア、ドイツでは、一時期、航空機の製造や研究が一切禁じられ、その技術やアイデアが戦勝国に独占されてしまったことに起因している、と訳者が解説している。

前述のリリエンタールは飛行テスト中に墜落してこの世を去った。最後の言葉は「誰かが犠牲にならなければ、、、、」だったそうだ。そのような犠牲の上に、ライト兄弟の初飛行からわずか100年余りで人類の航空技術は飛躍的な発展を遂げた。しかし、その犠牲という言葉が意味するものは、少なくとも、戦争で命を落とす人々ではなかったはずだ。今日の飛行機や航空関連機器の進歩の原動力が戦争であったということはなんとも皮肉な話である。

2006年6月12日

 

 

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