電気通信大学 上野芳康
July 26, 2005
超高速光ロジック研究室 Top
上野 芳康
Yoshiyasu Ueno
10年後・20年後の未来社会に役立つおもしろい技術と人を生み出す!
電気通信大学大学院 電子工学専攻 助教授 工学博士
1961年 大阪府生まれ
東京大学理学系大学院修士課程修了
同大学工学系大学院博士号学位取得
1987〜2002年 日本電気株式会社 光エレクトロニクス研究所などに勤務、
DVD光ディスク用半導体レーザと光通信用全光スイッチの研究開発に従事、
2002年より現職。
[研究テーマ] 超高速な光信号処理
新しい科学技術
皆さんの身の回りで、携帯電話、パソコン、デジタルカメラ、2足歩行ロボットなどの電化製品が驚くほどのスピードで進化しています。私の学生時代にあったモノはこのうちのパソコンだけですし、当時のパソコンの性能は現在のわずか10万分の1程度でした。最先端技術の現場を長く経験してきたの私自身が驚いています!
ところが一方で、全く新しい技術が社会に受け入れられ、スムーズに利用できるようになるまでに5年・10年といったとても長い年月がかかっています。例えば現在のパソコン・ADSL回線・セキュリティソフトは、「初心者が気軽に使い始める」には程遠い状況。安易な技術用語と商品名の乱発が、大混乱に拍車をかけています。
光通信ネットワークの場合、その大容量化は20年前から始まっており、情報量の少ない電話(= わずか10kHzの音声信号)が無料になることは明白でした。しかし2005年現在でも、旅行先のホテルから国際電話をかけるとやたら高い電話代を取られます。格安あるいは無料な方法があるらしいが、あちこち調べなければならない(ちっとも楽しくない)。さらに、1年もしないうちにやり方も会社名もコロコロ変わる(苦痛!)。
パソコン
誕生以来20年も経ったのに、まだ未完成。使いにくい。 (普通? 遅い例?)
携帯電話
5年程度で爆発的に普及し、まあまあ使いやすい。 (特別速い例)
と思います。なぜでしょう?!?
社会が、さらに文化が「新しい技術」を使いこなす時間を含めると、実際に5年・10年・場合によって15年以上の長い年月がかかっています。最近話題になっている青色LED・青色半導体レーザも、研究着手から20年以上の年月が経っています。おもしろいことは、「ごく普通の人が特別苦労せずに使えるようにならないと、次の新しい技術領域を研究開発できない」ことです。それが大きな立派な研究所であっても。つまり一見新しい技術が次々に生まれているように見えても、王道の「先端技術」の世代交代は、意外にゆっくりです。世界全体がビジネスと国際学会と介して、試行錯誤を繰り返して進化発展しています。
未来の光情報通信
携帯電話の電波(2GHz〜5GHz)やパソコンの高周波電気信号(2GHz〜3GHz)と同じように、
『光も電磁波の1種』
です。レーザが発明された1960〜1970年代以来40年間、電波や電気信号よりはるかに高周波な光信号(
200,000GHz
)を使った「高速情報通信技術」が、世界の技術者・研究者の大目標です。このうち前半の「光伝送技術」は、20世紀末までに完成の域に達しました。いまでは100km以上離れた都市へ、10
12
〜10
13
ビット秒という莫大な光信号を送り出すことができます。100GBのハードディスクを0.1秒で転送する伝送速度です。
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ところが現代の光情報通信技術では、100kmの光ケーブルを行き来するときだけ光信号であり(=光伝送技術)、ルーティングなどの信号処理は全て低周波電気信号にいちいち変換して行われています。200,000GHzの光信号周波数を活かした光信号処理技術が、
過去30年間誰にも
実現できなかった大きな目標です。
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光信号処理の研究は、1970〜1980年の揺籃期、1980〜1995年の第1期、1995年以降の第2期に分けることができます。第1期の1995年までの多数派は、理学系物理系の研究者でした。1995年以降に日欧米で行われた研究成果によってかなり実用的な方式が生み出され、工学系技術者・研究者が多数派を占めるようになりました。日本の技術者・研究者が大きな役割を果たしてきました。今後の発展が楽しみな、
新しい先端工学分野
です。最新の半導体光エレクトロニクス工学、光集積技術、光ファイバー技術に支えられています。
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第1線の技術者・研究者として
大学で半導体エキシトンの光物性物理を3年間、NEC研究所でDVD光ディスク用の短波長半導体レーザと光通信用の高速光信号処理方式を計15年間研究開発しました。途中米国フロリダの光研究センター(CREOL)でも1年余り、光信号処理を目的とする高速光半導体物性を研究しました(ついでに4人家族でディズニーワールドやスペースシャトル打ち上げへ何度か)。大学と企業研究所での18年間に多くの恩師・厳しい上司・エネルギッシュな同僚に恵まれ、国際学会・事業部門・日米特許庁との論戦を通し、1つ前の世代のDNAを受け継いだと思います。研究中の未知・未完成な状態を「面白い」と感じることが、全ての場面の最大の原動力です。
2002年から研究拠点を電通大に移し、光信号処理の研究を進化発展させています。資金と人材の豊富なはずの企業研究所でなかなかできなかった種類の研究を、
大学の長所
を活かして発展させ、技術社会に貢献したいと考えています。
さらに私から21世紀の次の世代へ、技術者・研究者のDNAを手渡したいと思います。それは単なる知識だけではなく、実験装置や解析プログラムの使い方や作り方だけではなく、柔軟なチャレンジ精神、わからないことを見つけ出す手腕、素早い判断・決断、仲間との話し合い、国際国内学会での議論と交流、失敗からこそ学ぶ、さらに科学・技術に関わる哲学まで若い世代と話し合えたらいいなあと願っています。
Copyright Univ. Electro-Comm., Ueno Lab. 2005