野尻湖ナウマンゾウ博物館

人類が絶滅を速めた太古のゾウ

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 長野・新潟県境に近い北信の高地に避暑地として知られる野尻湖がある。この湖はまたナウマンゾウ化石の出土でも有名だ。このゾウは日本列島が大陸と地続きだった氷期に大陸からやってきた北方系の種類で、約1万5千年前に絶滅した。

 従ってゾウとはいっても動物園で見るインドゾウとは体型や大きさがかなり違っていた。ナウマンゾウは体がやや大きく前足も太く、キバも長かった。頭も大きくてやや細長く、頭頂部にふくらみがあり、耳は小さかった。

 古生物の知識が乏しい作者は、なぜ野尻湖の周りにばかりゾウが集まっていたのかと以前は不思議に思っていたが、それは誤りだった。このゾウは北海道から沖縄までに棲息し、その化石は陸上ばかりでなく、瀬戸内海や日本海の海底から昔から多数見付かっていた。

 1921年に浜名湖東岸から発見されたいくつかの化石を標式標本として、このゾウはナウマンゾウと命名された。今までに北海道・千葉県・東京都・神奈川県などからもほぼ一体分の化石や、多くの部位の化石がまとまって出土している。

 この名前は日本の地質学や地質調査の創生期を指導し、大きな業績を残したドイツ人地質学者エドムント・ナウマン(1854-1927)を記念して付けられた。彼はこのゾウの化石に関する論文を日本で初めて公表し、また本州を二分する大断層帯、フォッサ・マグナや中央構造線の存在を提唱した人でもある。

 野尻湖では1948年に湖岸北西部から長さ30センチ、重さ5キロの湯たんぽ状の石が見付かり、それは後にナウマンゾウの臼歯と判明した。その後う余曲折の末、議論よりともかく掘って見ようという気運になり、1962年に発掘調査が始まった。

 発掘作業は湖の水位が3メートル低下する早春に露出した湖底で実施される。そこでは全国から参加した多くの一般人が専門家の指導を受けながら、各々4メートル四方の区画に分かれて発掘する。今では発掘結果を三年かけて研究するサイクルが定着している。

 約40年間継続された発掘事業の出土品は約8万点に及んでいる。それではナウマンゾウの化石は全国から見付かるのに、なぜ野尻湖なのだろうか。市民参加方式の採用も関心を引く一因だが、単にそれだけではない。

 そこには野尻湖自体が大きく関係している。一般に気候が温暖多雨で酸性土壌の多い日本の風土では、木材や骨は腐朽や溶解作用によって比較的短期間に消失し、残存するのは石質物だけだ。

 ところが野尻湖からは石器以外に、骨の化石や骨器、木質系の遺物、植物の種子や花粉、昆虫や貝の化石、ゾウやシカの足跡などが見付かった。冷涼な高地にある湖水と幾重にも堆積した火山灰の存在が、それらの保存面と年代判定に幸いした。

 これらの調査研究によって当時の気候、繁茂した植物の種類、当時住んでいた狩猟民(通称 野尻湖)の暮らしぶりなどを解明する手掛かりが得られた。この時代は欧州でネアンデルタール人が生存していた時代だから、比較上からも重要な意味を持っている。

 ナウマンゾウやヤベオオツノジカなどの大型動物は当時の人々にとって貴重な蛋白源であり、骨や皮などは生活用品になった。その解体処理場所の発見は画期的な成果で、それによって骨器の製作法や捕獲動物の年齢分布などを知るのに貴重な手掛かりを得た。

 この地域では3万年ほど前にナウマンゾウが姿を消してしまった。それは寒冷化や温暖化といった気候変動による生存環境の激変に適応できなかったのかもしれないが、乱獲の影響もまた大きかったと推定れている。

 遺跡の発掘現場に近い湖畔に「野尻湖ナウマンゾウ博物館」がある。館内にはナウマンゾウやヤべオオツノジカの実物大復元像、各種出土品や湖底地層標本などを展示している。また野尻湖人やxnojiri続く後期旧石器時代人の暮らしも説明している。さらに各回発掘調査の成果とその意義を紹介している。

 これらの説明をよく読めば、野尻湖湖底遺跡は世界的にも数少ない貴重な存在であることが分かる。そこにはまだまだ不明な問題も多く、今後の発掘と研究の継続と進展が期待される。写真は湖底遺跡のある辺りの初夏の景色である(写真参照)。冬季にはこの船着場の桟橋もすべて湖底に露出して、その周辺で発掘が行われる。

 ここで一つエピソートを付け加えると、当地で最初の化石が見付かった時、当時の文化人類学の老大家にその研究法などを相談したそうだ。ところが彼は極めて否定的な答えを返して相手にもしなかった。そのため研究はかなり長期間実施されぬまま放置されていた。

 この件は権威者を自認する御仁たちの一言が,その権威?ゆえに新しい発見や研究を阻害した一例である。人間だれだって万能ではないし、名を成した時は時代遅れになる始まりということを十分肝に銘じなければなるまい。

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(作成日: 04/07/05、 更新日: )

 

(施設情報参考)名称_住所_電話番号_駅からの概算路線距離(駅からの概略方位と直線距離)・所要時間・バス_展示規模_対象_開館時間(受付終了時刻)_休館日_備考_{施設情報確認日}開閉館時間と休館日はよく変るし臨時休館もある。事前確認が賢明

 

野尻湖ナウマンゾウ博物館_新潟県上水内郡信濃町野尻 287-5_TEL 026-258-2090_

信越本線黒姫駅から約4km(20deg.E 3.0km),駅から野尻湖行きバスで終点下車後徒歩5分_

無料駐車場完備_中_大人子供_

(通常営業期間3/2011/30の開館時間) 9:00-17:00 _

5691011月の末日(その日が土曜日や日曜日及び祝日に当たる場合は開館し、その翌平日に休館)

なお3,4,7,8月は無休。

年末年始(12/281/3)

(12/23/19の冬季営業期間は、年末年始を除き見学は可能だが、事前連絡による確認を要す。開館時間は9:0016:00_{17/05/22}