沼津市若山牧水記念館

酒を愛し酒で逝った旅の歌人

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 「白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり」。若山牧水(1885-1928)の詠んだこの歌は広く知られる。彼は酒を好み一日最低一升は飲んだといい、酒の歌も多いが肝硬変などを患って43才で亡くなった。

 酒と旅と恋の歌人と評された彼は旅を好んで各地で歌を詠み、紀行文や随筆も書いた。もの悲しさを伴った彼の多くの歌は人々にある種の郷愁を誘う。そして分かりやすい言葉で表現された美しく清らかな歌は、よどみない流れと相まって人々に好まれている。

 彼は明治末期に多くの秀歌を世に出したが、さらに短歌の雑誌「創作」を創刊し、短歌の普及や新人の指導も目指した。だが彼は三十代後半に経済的精神的な行詰りを感じたとして、田園生活を求めて東京から沼津へ移住し、晩年の8年間そこで暮らした。

 沼津の温暖な気候と美しい風光は彼と家族に安らぎをもたらしたのか、「創作」の編集にも力が入り、月刊誌「詩歌時代」も創刊した。それでも彼は酒と旅に明け暮れる生活は変わらず、家計や家庭生活に無頓着だったから、喜志子夫人(1888-1968)はやりくりに苦労したそうだ。

 正月の温泉に長逗留する牧水への、夫人の苦情に対する返信がふるっている。「たれやらがひとりおこりてひとりなく ひとりおもへばおもしろきかも…」。その後、「詩歌時代」発行の挫折と負債整理は大きな負担となった。

 彼の旧居跡に近い沼津市の千本松原の一角に「沼津市若山牧水記念館」があり、牧水の生涯と業績を編年別と主要テーマ別に紹介している。大歌人の業績を素人が講釈しても始まらないから、以下に彼の歌をテーマ別に何首か並べてみよう。

 まず旅の歌には彼の心情を吐露した秀歌がある。「幾山河(いくやまかわ)越えさりゆかば寂しさの はてなむ国ぞけふも旅ゆく」 「いざ行かむ行きてまだ見ぬ山を見む このさびしさに君は耐ふるや」 「山ねむる山のふもとに海ねむる かなしき春の国を旅ゆく」。

 恋の歌では、「山を見よ山に日は照る海を見よ 海に日は照るいざ唇(くち)を君」 「あるとなきうすきみどりの木の葉さへ わが悲しみとなるも君ゆえ」。

 好きだった富士山の歌では、「駿河なる沼津より見れば富士が嶺の 前に垣なせる愛鷹の山」 「なびき寄る雲のすがたのやはらかき けふ富士が嶺の夕まぐれかな」 「夏雲はまるき環をなし富士が嶺を ゆたかに巻きて真白なるかも」。

 自然描写では、「白鳥(しらとり)は哀しからずや空の青 海のあをにも染まずただよふ」 「ここはなほ物かげなれど朝空を かがやきてゆくしらさぎの鳥」 「うす紅に葉はいちはやく萌えいでて 咲かむとすなり山ざくら花」 「霜はいま雫となりてしたたりつ 朝日さす紅葉うつくしきかな」。

 酒の歌は白玉の他に色々あり、健康上次第に追い詰められて行くのが分かる。「舌つづみうてばあめつちゆるぎ出づ をかしや瞳はや酔ひしかも」 「人の世に楽しみ多ししかれども 酒なしにして何のたのしみ」 「酒すすればわが健かの身のおくに あはれいたましき寂しさの燃ゆ」

 「かんがえて飲みはじめたる一合の 二合の酒の夏のゆふぐれ」 「指さきにちさき杯もてるとき どよめきゆらぐ暗きこころよ」 「酒やめてかはりになにかたのしめといふ 医者がつらに鼻あぐらかけり」 「われはもよ泣きて申さむかしこみて 飲むこの酒になにの毒あらむ」。

 そして当館から近い菩提寺の墓前には牧水夫妻の歌碑がある。「聞きゐつつたのしくもあるか松風の 今は夢ともうつつともきこゆ 牧水」「故里の赤石山のましろ雪 わがゐる春のうみべより見ゆ 喜志子」。

 牧水は故郷や親を想いながらも帰らず省みず、ただひたすら「けふもまたこころの鉦(かね)をうち鳴し うち鳴しつつあくがれて行く」として「あくがれ」の旅を続けた。彼の没後、女流歌人の夫人は「創作」の仕事を継承し、長い生涯にわたりそれを主宰した。

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(作成日: 02/10/10、 更新日: )

 

(施設情報参考)名称_住所_電話番号_駅からの概算路線距離(駅からの概略方位と直線距離)・所要時間・バス_展示規模_対象_開館時間(受付終了時刻)_休館日_備考_{施設情報確認日}開閉館時間と休館日はよく変るし臨時休館もある。事前確認が賢明

 

沼津市若山牧水記念館_静岡県沼津市千本郷林 1907-11_TELFAX 055-962-0424_

沼津駅から2.3km(25deg.W 1.9km)徒歩約30分、駅から箱根登山バス千本経由または港湾経由で「牧水記念館前」下車_小_大人_

9:00-17:00(16:30)_

月曜日(祝日に当たれば開館し、翌日休館)12/291/3_{17/03/02}